
▲白河レーベル
「外観で入居を決めることはない。」
不動産界隈、特に賃貸の現場でも、このような意見を聞くことがあります。入居を決めるポイントは人それぞれであり、外観”だけ”で決断する人は少ないかもしれません。駅距離、間取り、設備、内装、周辺環境、そして賃料…様々な要素を加味して、入居を決める方が多いでしょう。
しかし、外観は入居を決める上で重要な要素ではない、とも言い切れないと思います。人と人においても、数秒で「第一印象」が決まり、その印象はその後の判断に大きな影響を及ぼすという研究結果があります。建物、賃貸用の一棟物件においても、「この物件、良さそう!」という第一印象を抱いていただくために、外観は大きな影響を及ぼすと思います。また特に、弊社の主戦場である都内においては、「この建物に住みたい」と思える衝動や、友人等に「ここに住んでいる」と誇らしげに言えるか否かも、部屋探しのピースになっている感覚があります。
大前提:法律、条例等の制限に抵触しない
具体的に外観をどのように検討していくのか、ご紹介したいと思います。
まず大前提として、景観法から逸脱した外観とすることはできません。「景観法」は、国が定めた景観に関する法律(所轄は国土交通省)です。景観法自体は、直接都市景観を規制しておらず、地方自治体が景観に関する計画や条例を定める際の法制度です。具体的な規制は、地方自治体が「景観条例」によって制定しています。
景観条例で特に気をつけたいのが「色」です。中明度・低彩度が推奨されているケースが多く、周辺の景観に対して極端に違和感の強い色彩は制限されています。真っ白、真っ黒、または高彩度の色などは、外観全面に採用することはできない可能性があるので注意が必要です。
また、外観に関わる制限は、景観法や景観条例に限りません。例えば、外観にも大きく関わる「窓」。その大きさは規定されていることが多く、東京都では「道路又は窓先空地に直接面する窓」は有効で幅750㎜以上かつ高さ1200mm以上を基本とすることが条例で定められています。また、同じく東京都では共同住宅の「主要な出入口」から道路に至るまでの通路幅や距離も、東京都建築安全条例で規定されており、エントランス付近に影響を及ぼします。
こうした基本的な法律、条例の制限を把握した上で、外観を検討する必要があります。
ボリュームチェック、間取りの検討から入る
投資用の一棟物件(一棟マンション、アパート)の計画において、多くの場合は外観の検討よりも先にボリュームチェック、すなわち当該地に最大でどれくらいの大きさの建物が立つのかの検討から入ります。
ボリュームチェックにより何平米の居室が何部屋作ることができるか把握した上で、具体的な間取りを考えていきます。また、間取り検討と合わせて、外観の検討も行うことがベストだと思います。最大の建物面積は大きく変わらないものの、部屋の割り方(窓の位置や形状が変化する)や、道路境界線・隣地境界線までの離隔距離、さらにエントランスの場所や幅員などを変えることで、外観に大きな影響を与えます。間取りや部屋割りを見ながら、外観の形状も合わせて検討する。場合によって、部屋の割り方や、最下階・最上階の居室面積をもう一度考え直す。こうした検討のプロセスは、以前の記事(土地から新築!一棟マンションを建てる上でのポイント)で紹介した思考の巡りに近い部分があります。
なお、上記は投資用の一棟物件における一般的な方法であり、コンセプトの策定や外観の検討から始め、その後から具体的な部屋割り・間取り等を作成していくという方法もあります。
新築一棟の外観でこだわりを出せる素材例
外観の好みは千差万別であり、また時代によって流行や真新しさも変化があると思います。もちろん、時代が変化しても人々の根底にある、美意識や感性も存在するかもしれません。
何がかっこいいか、美しいかを画一的に決めることはできませんが、弊社が主に手掛けるRC造(鉄筋コンクリート造)のデザイナーズ物件において、外観の素材としてよく候補に挙げられる素材例を2つご紹介します!
◾️タイル
タイルは、簡単に説明すると、粘土などを主原料に高温で焼いたもので、壁にも床にも、そして屋内にも屋外にも使用することができる建築材料です。熱、水、火に強く、外壁面にも適しています。RC造においては、中のコンクリート面を保護する役割も持ち、経年劣化の少ない材です。
意匠の観点では、なんといってもその種類の多さが特徴です。色はもちろん、光沢や凹凸の具合、模様、サイズなど、タイルメーカーが何百何千種類ものタイルを販売しています。種類の多さから、さまざまなコンセプトの建物に使用することができ、特徴的なタイルをファサードに大胆に使用すると、建物の「第一印象」に大きな影響を与えます。
種類の豊富さ、そして耐久性・メンテナンス性に優れた「タイル」は、外観に使用したい材料の一つです。もちろん、内装材としても、水回りをはじめ様々な箇所に使用が可能です。
▲江東区木場二丁目プロジェクト
◾️杉板型枠を使ったコンクリート打ち放し
デザイナーズ物件として、コンクリート打ち放しの外観を思い浮かべる方も多いかと思います。最近では、全面的なコンクリート打ち放しの外観とした共同住宅も数多く建てられています。
弊社では、シンプルなコンクリート打ち放しはもちろん、杉板型枠を用いた木目模様が現れるコンクリート打ち放しも活用しています。コンクリート打ち放しの外観には一般的に、ウレタン塗装でコーティングされた「パネコート」と呼ばれる型枠を用いて、つるっとした平滑で美しい仕上げとすることが多いです。もちろん、パネコートによるコンクリート打ち放しも大きな魅力があります。
一方で、近年では多くのコンクリート打ち放し物件が誕生していることから、より差別化、意匠性を高める選択として、杉板型枠を用いた木目が表層に現れるコンクリート打ち放しも、「こだわり」を持った外観になると考えています。冷たく無機質な印象をもつコンクリートに、温かみや風合いを感じる自然由来の木材。その両方が組み合わさった杉板型枠コンクリート打ち放しに、魅了される方も少なくありません。
なお、杉板型枠のみならず、今後弊社ではOSB板型枠材やハツリ仕上げなども外観に用いて行きたいと思っています。
▲八雲レーベル
窓配列やエントランスも
共同住宅の外観に欠かせない要素となるのが「窓」です。
共同住宅は、戸建て住宅のように、まったく窓のないファサードとするケースは少ないため(敷地に余裕があれば不可能ではないです)、窓の大きさや配列は意匠に密接に関わります。同じサイズが綺麗に縦横に配置されると、整然とした美しさ・優雅さを感じることができます。一方で、日本には不揃いなもの・不完全なものに美しさを感じる「侘び寂び(わびさび)」という美意識も存在します。必ずしも全てが理路整然と揃っていることがベストとも限りませんので、建物コンセプトや意図する外観イメージから、窓の配列を考えていく必要があります。
また窓には「開き方」も複数種類あります。日常生活の利便性では引違いが好まれることが多いですが、ファザードとしては縦滑り出し窓やスリッドのFIX窓が建物をよりシャープに演出してくれます。窓の大きさや配置、開き方の選択が外観に大きく関わり、些細なバランスこそ腕の見せ所(=こだわり)になります。一方で窓は、室内の間取り・採光、そして避難経路に切っても切れない関係のため、外観の観点だけで決めていくことができるわけではない点は注意が必要です。
外観には「エントランス」も含まれます。建物の顔といえば、エントランスではないのでしょうか。道路から建物を見上げたファサードも重要ですが、入居を決める判断材料の一つとしてエントランスの印象も重要な要素です。なお、エントランスはオートロック、メール・宅配ボックス、またゴミ捨て場など、生活に欠かせない機能とも密接に関わっている空間です。毎日通るエントランスが、カッコよく、心躍る空間であると、入居を決める一つの後押しになるのではないでしょうか。
▲白金レーベル
新築一棟の外観は、内観との統一感も重要
ここまでは、外観を検討する上で要素となる、素材や窓、そしてエントランスについて触れました。しかし、外観はそれ単体だけではなく、内観との統一感も重要となります。
賃貸物件の入居を決める過程において検討者は、外観のみならず様々な要素を加味して決断していくことになります。建物を企画する上で重要な点、それはコンセプトを持って外観から内観まで一つの筋を通すことだと思います。外観が持っている雰囲気を、室内まで通して仕上げていくことができれば、入居を検討いただく方が「ここに住みたい!」と思っていただける要素になると思います。
外観と内観の関係においては、色、素材の統一感が重要になることはもちろん、場合によって設備類の選定も関わります。重厚なタイルを使ったエントランスの先に、内装があまりにチープな設備を使っていると、かえって安っぽさが強調されてしまうなど、チグハグ感が出てしまいます。
おわりに
▲エフティヒア西品川
本記事の冒頭で、「外観で入居を決めることはない」という意見に異を唱えました。もちろん、逆に外観だけで入居を決めるとも思っておりません。弊社セミナーでも触れることがありますが、外観は入居を決める重要な要素であり、一方で一つの要素でしかないとも言えます。
弊社が大切だと思うこと、それは「総合力」です。美しい外観から始まり、心躍るエントランスを通り、オートロック等の設備が充実し、そして使いやすい間取り、充実した収納、、そうした総合的な物件力が、賃料を上回って「ここに住みたい」と思っていただいた時に、入居を決めていただくことができます。
入居検討者の第一印象に関わる新築一棟物件(共同住宅)の外観、皆さまもぜひ一度考えてみてください。

小栗 隆史
一橋大学大学院卒業後、(株)電通にて大手自動車企業等を担当。その後、(株)オープンハウスの社長室において中期経営計画の策定や、米国不動産事業の立ち上げに従事後、東京レーベルを創業。
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